今回読んだのは、伊吹有喜さんの『雲を紡ぐ』。
☑第163回直木三十五賞候補作
『雲を紡ぐ』のあらすじ
いじめが原因で学校に行けなくなってしまった高校生の美緒。心のよりどころは小さい頃に貰ったショールだった。ふとしたところから母と口論になり、美緒は祖父の元へ家出をしてしまう。
美緒はホームスパンの職人である祖父とともにショール作りをしていく中で、自分の色を探し始める。
一方では、父と母の間に離婚話が持ち上がっていた。
これは親子三代が紡ぐ「心の糸」の物語である。
『雲を紡ぐ』の印象的な言葉
せがなくていい
『雲を紡ぐ』(文藝春秋) 伊吹有喜 より
「まずは『自分の色』をひとつだけ選んでみろ。美緒が好きな色、美緒を表す色。託す願いは何だ?」
『雲を紡ぐ』(文藝春秋) 伊吹有喜 より
『雲を紡ぐ』の感想
小説の舞台は盛岡市。
周りと上手く馴染めず、親に怒られても上手く言葉が出てこなくて、いつも縮こまってしまう主人公の美緒。
そんな美緒が家出した先の祖父の家でホームスパンと出会います。
この物語では職人さんたちと触れ合っていく中で美緒の成長が見られると同時に、両親の苦悩も描かれます。
一見お仕事小説のように思えるのですが、人の感情を様々と描くことで家族小説となっているところもとても素晴らしくて感動しました。
これが直木賞ではないんですね・・・。
確かに祖父の人間性が良すぎるのはあるのかな。あと個人的に残念だったのは、美緒があまりにも幼くて高校生だと思えず、ずっと中学生に見えてしまっていたところでしょうか。
審査員の方たちの講評では厳しいお言葉がいくつか見受けられましたが、個人的には万人受けする作品だと思うので、本屋大賞にはノミネートされそうだなぁと思いました。
おじいさんの言葉の「せがなくていい」(=急がなくて良い)は、現代の私たちにも伝わる言葉ですよね。
周りと合わせなきゃいけない、と焦る前に、自分の進む道はゆっくりと決めたら良いんだなと改めて思いました。
忙殺されていて忘れがちな現代人にホッと一息つかせることを思い出させてくれる、そんな温かい本です。
終わりに
家族小説って感動する内容が多くて、例に漏れず『雲を紡ぐ』も泣いてしまいました。
お店でショールを見かけたら、おじいさんと美緒を思い出して泣きそうな気持ちになってしまいそうです。
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